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2024/11/26

1029年3月~6月

▼三月

 
 
孫六交神
 
 
孫六「弥彦。話があるんだが、いいかな?」
弥彦「ああ、ちょっと待ってくれ」
 
ちょうど居間でみちると話をしていた弥彦を呼び出した。
明香里が亡くなって以来、みちるはよくこうして弥彦と話をするようになっていた。
みちるの家系の身内は弥彦だけになってしまったので、相手をしてもらっているのである。
 
みちる「孫六ー。ウチの大事な甥っ子、ちゃんと返してねー」
孫六「話をするだけですよ」
弥彦「叔母御、ちゃんと寝ててくれよ」
みちる「わかってるってばー。弥彦は顔に似合わず心配症だよねー」
 
みちるの細くなってしまった体を見れば心配をしてしまうのも無理からぬ話だ。
元気に暴れまわっていた以前の姿からは想像できない程、その体は変わり果てていた。
 
弥彦「俺の子供を見せるまでは死なないでくれよ」
みちる「うん、期待してるよ!」
 
孫六は気付いていた。
みちるがもう長くないということも。
そして、弥彦の子を見ることも叶わないであろうことも。
 
おそらくは本人もわかっていることだろう。
それでも生きることを止めてしまったら、その瞬間に死んでしまう。
それだけはできなかった。
 
 
 
二人は居間を後にし、孫六の部屋にやってきた。
 
弥彦「それで、話というのは?」
孫六「ああ、弥彦には次の当主になってもらうから、そのことでな」
弥彦「次期当主……それはすでに決まっていることなのか?」
孫六「決まっている。お前は当主となり跡を継ぐために生まれてきたんだ」
弥彦「その為に生まれてきたか…胸糞悪い話だ」
孫六「そう言うな。俺もお前も、そして、時定もこれから生まれてくるであろうお前の子供も、皆その為に生まれてくる」
弥彦「……」
 
秋葉家の男子は生まれた時から当主になることが定められており、跡継ぎを残す為に全てを担っている。
 
女子が子を残せない運命ならば、男子は子を残す為の運命を背負わされているのだ。
 
全ては、秋葉48菩薩に捧げるために。
 
 
弥彦「…胸糞悪い話だ」
 
 
 
▼四月
 
みちる「そろそろ、ウチもお迎えがくるかなー」
 
みちるが起きてきた為に久しぶりに全員で朝食をとっていると、不意にそんなことをつぶやいた。
和やかな雰囲気の食卓が凍りついた。
本人はあっけらかんと言い放ったが、他の家族はそんなことをあっさりと受け入れられるほどのほほんとしてなどいない。
 
孫六「…えっと、それは…」
みちる「いや、だからさ、なんていうかウチもそろそろ死ぬかなーって」
孫六「……」
 
気まずい。実に気まずい。
本人がそろそろだと言うのなら恐らくそうなのだろう。しかし、だからといって、急に死ぬだなどと宣言されても反応に困ってしまう。
 
みちる「まぁ、なんていうか急に死んじゃってもみんな困っちゃうと思うし、そろそろ死ぬんだなってわかってれば受け入れられるジャン」
孫六「『受け入れられるジャン』って言われても、すでに今受け入れ難いんですが…」
みちる「まぁまぁ、今のうちから予行演習だと思っときなって」
孫六「どこまで前向きなんですか…」
 
つくし「やだぁ~、みちる義姉様死んじゃやだぁ~」
あおば「うぅぅ、いなくなんないでくださいぃ…ぐすっ」
みちる「はいはい、まだ死なないから鼻水拭こうねー」
 
つくしとあおばは朝食を食べるのも忘れてボロボロ泣き出してしまった。
可愛らしい顔が涙と鼻水でもうグチャグチャだ。
 
みちる「二人は本当に泣き虫だねー。こんなんじゃ、本当にウチが死んじゃったらどうすんの」
つくし・あおば「しんじゃやだぁ~
みちる「こりゃダメね」
 
何を言ってもおいおい泣くばかりの二人にさすがにみちるも苦笑してしまった。
 
弥彦「叔母御、本当なのか?」
みちる「うん、もっと頑張れるかなーって思ったけどやっぱりダメだった」
弥彦「そうか…」
みちる「ごめんね、弥彦。弥彦の子供は見てあげられそうにないや」
弥彦「俺のほうこそ、見せてやれなくてすまない」
みちる「やっぱり、弥彦は優しいねー」
 
甥っ子の優しさが嬉しかった。それ以上に、もう一緒にいてあげられないことが辛かった。
表面上は人を寄せ付けない風を装いながら、心の奥から不器用な優しさがにじみ出ている所が兄「春樹」にそっくりである。
 
孫六「今まで、支えていただきありがとうございました」
みちる「あんなにちっちゃっかた孫六も今や立派な当主だからね」
孫六「いえ、みちる様達の支えあってこそです」
みちる「そうやって面と向かって言われると照れくさいなー、へへへ」
 
 
みちる「みんな、本当にありがとうね。まだ元気なうちにこんなこと言うの変だけど」
 
みちる「誰の為でもなく、自分の為に生きなきゃダメだよ。好きなことやって、好きなように生きるんだよ」
彼女の人生は彼女自身のものだった。その生き方は死ぬ間際まで変わることなく自由奔放であった。
 
「みちる」永眠 享年1歳7ヶ月
 
 
▼五月
 
孫六の第2子「きらら」誕生
 
口癖が「面目ない」かぁ…
ん?なんか前にもこんな子がいたような…

って、いたー!
 
時又以来の謝り癖のある子が生まれましたね。
兄の時定は座右の銘が「礼節」だし、なんか堅苦しい兄妹だなぁ。
あおばと兄妹とはとてもではないが思えない。
 
なんというか、事あるごとに面目ないとか言われたら逆にこっちが気を使ってしまうというか、お前本当にそれ心こもってる?とか思っちゃいそうですよね。
 
きらら「あ、面目ないです。あ、面目ないです。あ、これはこれは面目ないです

 
うん、なんかウザいな。


「そんないちいち謝ってたらキリがないですよね」
 
(´・ω・`)いや、あなたはむしろ語尾に「すみません」をつけても構わないくらいだと思いますよ。
 
 
▼六月
 
 
弥彦交神
 
 
その日は朝からソワソワして、落着きなく部屋で立ったり歩いたりを繰り返していた。
 
孫六「なんだ、さっきから落着きがない」
弥彦「い、いや、別になんでもない」
孫六「なんでもないなら静かに座ってないか」
 
孫六に注意を受け、大人しく座ってもどことなく居心地悪げにキョロキョロしてしまう。
初めての交神ということもあり緊張しているのだ。
 
孫六「お前は本当に外見に似合わない性格だな。もう少し堂々としていればいいだろう」
弥彦「叔父貴は始めての交神は緊張しなかったのか?」
孫六「んー?初めての交神の時か。あの時は緊張というよりも混乱の方が強かったからなぁ」
 
春樹になんの前触れもなく次期当主だと伝えられ、急に交神の予定を組まされ、大した説明もなく交神させられた時の事を思い出した。
あんな適当な説明でよく自分も当主としてやってこれたものだ、と今更ながら呆れてしまう。
弥彦には無用な混乱を与えないために事前に当主の事、交神の事は伝えておいたのだ。
 
孫六「春樹様は、まぁ、大雑把な性格の方だったから色々大変だったよ」
弥彦「そうなのか。親父のことはよく覚えてなくて」
孫六「小さい頃に亡くなってしまわれてからな。春樹様は少々大雑把で不器用な性格だったけれど、強く立派な当主でおられたよ」
弥彦「…俺は、親父のような当主になれるだろうか」
 
当主という一族を導く大事な役目。
望もうが望むまいが一族の男として生まれ、当主になることを決定されて育った子供に重い責が圧し掛かる。
 
孫六「なれるさ。お前は強い子だからな。きっと、俺や春樹様よりも強い当主になれる」
弥彦「俺は、俺が当主になったせいで家族が死んでしまわないかと考えると怖いんだ」
孫六「そりゃ、そんなのは俺だって怖いさ。今でもな」
 
孫六もし、家族が危険な目にあったら死ぬ気で守ればたいていのことはなんとかなるよ
 
孫六「まぁ、お前も子供が生まれて父親になればわかるよ。家族ってのはそういうもんだ」
弥彦「ち、父親になるのか、俺も」
孫六「ほれ、緊張なんかしてないでさっさと行って来い!」
 
話したことで幾分か緊張のとれた弥彦を見送って、孫六は自分の部屋に戻っていった

 
孫六「春樹様、あなたの御子は強い子です。きっと良い当主になられるでしょう。」
 
孫六「私は少しは強くなれたのでしょうか?」


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